よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

クリティカルパスを使う病院

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 多くの急性期病院ではパスの使用が盛んです。
 
 先日、ある病院のパス委員会のミーティングで再確認した事項が以下です。
 疾患ごとに治療内容や検査、達成すべき目標を明確にした工程表をクリティカルパスといいます。ご承知のように、早期に治療を完了するための重要な経路(クリティカルなパス)がパスの生い立ちです。日本ではクリニカルパスと呼ばれることが多くあります。
 DPCとなり、平均在院日数を短縮するながれがでてくると、パスのもつ意味が重要になります。パス日をⅡ期間の最終日に合せたパスがつくられ運用されます。もちろん、多くの病院でⅡ期間(簡単に言えば全国平均)ちょうどで退院や転棟が行われている病院はあまり多くはありません。
 
 
 しかし、標準としての管理としては当然の政策です。私たちのクライアントでも急性期では、パスを重視している病院が大半です。
 
 さて、パスを作成し、運用することで病院は、
(1)診療内容を標準化
(2)チーム医療進展
(3)業務改善による在院日数短縮
(4)コスト削減
(5)教育
(6)全体としての医療の質向上
することを目指しています。
 
クリニカルパスは、ケースマネジメントやアウトカムマネジメントにおけるバリアンスマネジメントを経て、継続的質改善のツールとなるものであり、他のツールとのリンクが必要であると考えられています。
 
例えば、パスを活用するためには、パスの各項目を正確に手順化する必要があり、マニュアルにより各行為が説明されなければなりません。バイタル4検とあったときに、その取扱いや深さが実施する者により異なる可能性があるからです。
 
パス通りに治療を行うなかで、標準通りにいかないことがあり、その修正が必要となります。修正を行うことは、すなわち業務改善を行うことやパスを改訂することを意味しており、そうしたパスの継続的質改善は、患者ケアにおける費用と質の均衡を最適なものとすることを目的としているとも言われています。
 
なお、いまさらではありますが、パス作成及び運営プロセスは、以下のものです。
(1)データ分析
(2)設計
(3)アセスメント
(4)パスプロセス確定
(5)ケースマネジメント
(6)アウトカムマネジメント
(7)バリアンスマネジメント
(8)教育
レセやカルテを分析し、特定の疾患について選択した患者が日々どのような治療を受けているのか(検査パスであれば検査の準備・実施・事後のフロー)、を紙に落とします。その内容をパスフォームに落とし込み、請求行為以外の行為で必要なものを書き込み、日々のアウトカム(到達点)を記入します。アウトカムは定量化されることが必要であり定性情報だけでは現場でのバラツキを排除することができません。
 
なお、パスは、次のながれで作成されていきます。
(1)一次パス
  現在行なっている医療ケアを並べたもの
(2)二次パス
  標準化された医療ケアのパス
(3)三次パス
  改訂された理想のパス
 
ここで、標準化とは、教科書的には
(1)絶対無比として強制力をもつというモデル
(2)ある時点での一応の決まりだが、現場で使われることで継続的に課題を修正されていくモデル、といった言い方をされますが、いわゆるその段階でのスタンダードです。
 
 標準化されていることで、標準化どおりにできない場合の早期発見、早期処置。パスの成長プロセスにおいては、相対的に(2)から(1)の比重が徐々に大きくなってきて、最終的には一定程度の期間、標準化されたモデルが使われ続けるようになります。
 
 パスにおいては、予測された医療計画を外れたものを逸脱(バリアンス)といいます。
 負のバリアンスは①予定された時間枠内の特定の目標や②アウトカムを達成することができなかった時に起こるものをいいます。パス開発段階で、当然にバリアンスの内容が異なります。
 
標準が不確定で、一定の幅に収斂していないときには、バリアンスの振れ幅がおおきくなります。到達点に到達できないときに、その原因を分析し業務改革につなげ、パス通りに業務を行うことができる質の確保、すなわち医療の質を向上させる活動が行われることになります。
 
なお、正のバリアンスや「変動」についても把握し、統計をとることでパスの改定さらにはシステム改善に貢献させるということも行われています。ここでは程度が軽くアウトカムに影響がないと考えられるものを変動としています。なお、パスの使用自体が不可能となるような場合には、脱落として当該パスの使用を中止することになります。
 
パリアンスマネジメントや、バリアンスの原因分析、そしてそれらをどのように改革に活用していくのかについて仕組みをつくることがとても大切です。
 
パスを単に指示書として使うだけであり、そしてバリアンスがでようがでまいが、お構いなしというのでは、パスの業務改革ツールとしての側面を捨象することになります。
 
パスが業務改革ツールであり、パスの運用を通じて仕事の仕組みや個人の技術技能を向上させ続ける、ということが理解されて初めて、関連図やマニュアルの意味も鮮明になるのであり、それがなければパスは本来もっている機能の重要な部分を果たせないという思いがあります。
 
最近内科において、高齢化も要因として、パスをつくれないほどの個体差がある治療が数多くあり、パス作成が進んでいないことがあります。我々は、パスの柔軟性を高めることにより、一定の幅をもちながら運用できるパスをどのように作成していくのかを課題の一つとしています。
 
道具としてのパスの機能を十分に発揮することで、現場に向上心と改革マインドが生まれてくることを期待している多くの職員と活動をすることをとても幸せに思います。
 
なお、最近、我々が患者別疾病別原価計算を行っているDPC病院において、原価や利益の側から標準モデルをつくり、利益バリアンスを取り始めていますが、別の視点から新たな発見もあり、この手法はとても有益であることを付け加えておきます。