よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

職務基準は組織の憲法

f:id:itomoji2002:20211030145213j:plain


多くの病院を訪問しますが、意外と職務基準がありません。況んやクライアントの企業においておやです。

 

職務基準は職員の到達すべき能力レベルを一定の基準に従い示した規程です。憲法のようなものだと考えています。それがない組織は、個々のスタッフの能力を評価できず、また教育の基準も示せにないため、一部のいわゆる「仕事のできる」職員に依存した病院運営を行うはめになります。

 

優秀な人が辞めると組織の質が落ちる。優秀なスタッフが入ると質があがるといったことを微妙なところで繰り返しながら業務を進めていきます。これで本当によい医療が継続できるのか不安になります。一般の企業でも同じですね。職務基準は組織運営の重要なツールだということができます。

 

以下、ある病院で使った資料を基礎として、職務基準についておさらいします。

 

(1)職務基準の考え方

職務基準は、仕事の基準です。仕事のレベルをどこに置けばよいのかのスタッフの拠り所となるものです。病院においては、従来はスタッフ一人ひとりの技術技能を評価する、そして課題を発見することができづらいという環境にありました。

 

しかし、環境変化が激しく質が高く合理的な医療を行うためには、より一層スタッフのスキルが高くなければ、今後環境適合できないことがわかってきました。スキルを高めるために一定の基準を用意することが必要となったなかで、職務基準をその基準とすることが適当です。

 

マニュアルを背景にもって職務基準を作成します。勿論すべての職務基準についてマニュアルが準備されているわけではありませんが、まずは職場において教育(スキルを高めるための)環境づくりを行うという意味で、職務基準をマニュアルを活用し役立たせていくことが必要です。

 

再度、職務基準はスタッフのスキルを高めるための拠り所である、という認識をもっていただきたいと考えます。

 

なお、職務基準は、職務内容と資格がマトリックスになっています。一般的に難易度により、仕事の割り振りが行われることが職場の行動様式になっているという前提のもと、重要性についても表示することによって、各等級においての優先順位づけをしています。

 

等級制度を導入していない現状において、入植年次や一般、監督、管理といった職位の概念で整理してもよいですが、いつかは病院全体での資格別のレベルを規定していくことを通じ、それらについてより明確な基準を設けることも考慮する必要があります。

 

仔細な部分については、職務基準を作成する段階で、作成者に説明を行いますが、理解できない点があれば、ご質問をいただければと思います。

 

(2)職務基準の理解

職務基準を理解する必要があります。職務基準が上記の考え方であるとすると、それらについて上長はそれを理解していかなければなりません。

  

少なくとも自分の職場にはどのような仕事があり、それはどのような内容をもっていて、誰が行うべき仕事であるのかについて上長はすべてを把握しておく必要があります。それよりもなによりも、上長はこれらすべてについて精通している必要もあります。すべてのスタッフが定められた自ら設定されている職務、仕事について自信をもって対応できるようにしていくことがあります。

 

その意味では理解というよりも、もっと深い段階での認識、受容が必要です。まずは上長が職務基準を受容し、スタッフ全員が自らの範囲で職務基準を受容することができるよう上長は、あらゆる手段をつかって、部下に働きかけていく必要があります。

  

ある意味上長は、自ら設計した職務を、自らがすべて理解したうえで、また受容したうえで、職場のなかで徹底し、成果をあげていかなければなりません。

 

これは上長であるから与えられた権限であり、多くのスタッフを、病院の方針を遵守したうえで、それをどのように達成していくのかといった戦略のもとで、マネジメントすることができるのです。誰にでも与えられた権限ではありません。上長にのみ与えらた権限であることをよく理解して、対応していくことが必要です。

 

勿論、権限の背景には、責任があります。職務基準の理解を前提として、組織を動かすことについての権限と責任について十分議論することも重要ですね。

 

(3)職務基準とマニュアルのリレーション

現在明らかになっているように、職務基準はすべてのマニュアルによって裏付けられていなければなりません。客観的な指標として病院全体のスキルを規定し、スタッフの教育の標準となるということは、

  1. 客観的でなければならない
  2. 標準化されていなければならない

ということがいえます。

 

であれば、少なくともマニュアルといったツールによって、誰が利用してもほぼ同じ結果が得られる状況としておかなければなりません。そのために職務基準が設定されたのち、必ず当該職務基準についてマニュアルがあるかないかをチェックし、ないものについてはマニュアルを整備しておくことが適当です。

 

マニュアルが整備されていない職務については、チェックシートを整備するところからはじめることも良いと考えます。なお、チェックシートについても作成のための一定のルールを設定することが必要ですから、この部分についても別途議論しなければなりません。

 

(4)個人の技術技能と職務基準

職務基準によって、スタッフ全員の仕事をチェックしてみます。そのことによって、客観的に個人の技術技能を評価し、教育課題を発見します。現状においては教育の対象とするための評価ではありますが、実際には処遇に利用されることもあります。

 

まずは問題や課題があったときに、それを早期発見し適切な教育を行う、というながれをつくりあげていく必要があります。今後は一定期間を定め、作成された職務基準とスタッフ全員をチェックし、評価をするところからはじめます。

 

なお、マニュアルがなく対応できないケースであれば、マニュアルを作成してからでなければ評価ができないということではなく、まずは上長のレベルで職務基準を理解し、自らの理解で部下の評価を行います。

 

自ら考えるところによって、部下を評価し、不足するところを発見し、個人カルテに記載することになります。これについては、上長自体が客観であり、標準であるといった解釈を行うことが適当です。

 

中間管理職研修により適切なリーダーシップを発揮できる上長の育成も必要です。職務基準を作成・運営することで、仕組みの見直し、教育による医療(仕事)の質向上、リーダー育成、公平公正や評価、結果としてのブランド構築が行えます。

 

厳しい時代、病院の憲法としての職務基準を、全ての組織における業務課改革の重要なツールとして活用することが適当です。