よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

精神科医療における退院支援

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以下はある病院の会議用の資料です。

現在、入院年次別の患者リストをみると、例えば180日を以内の患者は、ほとんど存在せず、明らかに超長期の患者が多く入院していることがわかります。

 

20歳代で入院し60歳を超える方々をはじめとして多くの患者さんが10年を超えて当院に入院されています。これは、過去から当院が退院支援を積極的に行ってこなかったことの証左であり、精神科医療に関する社会の考え方が大きく変化してきたなかで、当院が精神科医療を、あるべきかたちで行ってこれなかったことをも意味しています。

 

場合によれば、患者さんをとてもながく病院に入院させることで生業(なりわい)を立ててきたことを意味しており、とても悲しいことでもあります。当院で行われなければならない治療が完了したのち、できるだけ多くの患者さんに社会復帰をしてもらうことや、療養環境を変えてもらうことを考える必要があります。

 

もちろん、病院として地域医療を継続していくためには利益が必要であり、あるべき医療を行うなかで適正利益を確保することは絶対的条件です。しかし、それよりもなによりも当院の病院として求められる機能を果たすことができるよう多くの患者さんの治療を行える機会をつくることが必要です。

 

治療の必要な患者さんに入院してもらうことの帰結として退院支援が円滑に行われなければならないという側面もあります。何れにしても、患者を閉じ込めてしまう医療ではなく、患者の人生を切り開く医療が行われる必要があります。

 

そのための退院支援であり、そのための増患対策であるということを確認しなければなりません。退院支援を行うにも、増患を行うとしても、病院マネジメントの仕組みを正しく構築することや、職員全員の教育を徹底し、医療人としての使命を再認識してもらうこと、そしてそれらへの取組の結果として医療の質を高め、病院機能を強化していかなければなりません。

 

今回はその活動の第一歩として、現在入院している患者さんの退院支援シートを作成します。このシートは当院と社会をつなぐ唯一の病院共通情報です。

相談員個人が状況を把握しているだけではなく、また、医師が病状やこれからのことを思いやるだけではなく、退院支援の役割を担う誰もが当該患者さんの情報を把握し、患者さんの人生を切り開くことができるよう、シートを活用します。シートの作成はマニュアルに従ってこれを行って下さい。

 

長期に入院している患者さんから、順次当該シートを作成し、退院や転院の可能性がどこにあるのか、そしてどうすればその可能性を大きなものにしていけるのかについて考えていく必要があります。病院に、患者さんを押し込めた病院運営をすることを絶対に継続してはなりません。必ず成果をあげるという覚悟をもって、退院判定会議のメンバーを中心として、シート作成に取り掛かる必要があります。

 

なお、退院支援は病院全体の課題です。相談室スタッフだけではなく、すべての職員が、この病院の地域で果たす役割をしっかりと学習し、細胞一つひとつが本人の意識なしに自己増殖して、人が成長するような状態を、病院組織でつくりあげていく必要があります。細胞に当院の遺伝子を組み込んでいけるような、過去に経験のない闘いが求められています。

 

シートの作成は4月中という目標設定が必要です。早期に高齢者病棟を立ち上げ、次のステップ  に進むためにも、まずは現状認識をしっかり行う必要があります。関係者の奮起が望まれます。