よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

リスクマネジメントを初めとした仕組みの本質は教育

 

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さまざまな病院に行き、改革プロジェクトを動かしていると、ときどき不思議に思うことがあります。例えばリスクマネジメントもそのなかの一つです。
 
 リスクマネジメントは、医療安全レポートやインシデントレポートを提出することが基本的な仕事になり、そこから課題を拾い、個人の責任を問うのではなく、仕組みを変えていこうということで行われる仕組みです。
 
 しかし、実際に発生しているアクシデントがすべて拾われていない、その原因が徹底的に追求されていない(分析されていない)、対策が立案されていない、対策が立案されたとしても現場に徹底されていない、現場に一時期は徹底されたとしても、定着していない、といったことがよくあります。
 
 さらに、詳細にいえば、レベルの設定が誤っている、当初の設定が変化したときにも、記録がない(例えば経過観察2→治療を要す3)。もちろん、日常的にリスクマネージャーがいない、いても独自、それぞれの意見をしっかり説明し、全体の質の向上に役立たせることもできていない、といったことがそれらです。
 
 インシデントにしても、把握する仕組みがアクシデントのシンプル版的なものとなっており、現状を洗い出す仕組みになっていない。また、網羅的に把握されていない、把握されたものについても、グルーピングされていない、そのうえで対策が予防的にとられていない、といったことがあります。
 
 病院は、マニュアルにしても、パスにしても、NSTにしても、感染症対策にしても、何にしてもそれぞれしっかりとした仕組みをつくりあげてきています。しかし、仕組みをつくることや、運用することが基本的なタスクになってしまい、職員全員がそれを理解し、それを仕事に活かし、ナレッジとして修得し、成長できているかといえば、疑わしいところがあります。
 
 仕組みを廻すことに力がはいり、個々人に対す教育や指導に落とし込まれていないという現状があります。
 
 看護部のラダーにしても、同様です。大まかな要件をクリヤーすることを大まかに教育したのち、曖昧な基準で階段を上っていってしまうので(本当はラダー=はしご)、個々の技術技能を仔細にチェックできているかどうかについての検証が行われないままに先に進みます。
 
 まだ、プリセプティングのほうがどちらかというと個別に手技をチェックするので、より具体的な教育が行われていると考えますが、新人向けであるため、卒後の研修や継続研修となると、いきおいマクロ的な視点での教育になってしまう、あるいはいくつかのチェックシートによる大わっくでの指導になってしまうという傾向があると、私は思っています。
 
 そうではなく、個別に教育カルテをつくり、個人の職務能力についての技術的、管理的なスキルを一つ一つチェックしたうえで、できていないところを発見し、できるように教育の方針を立て、仕事のなかで課題を発見し、かつそれを上司だけではなく、教育担当者を置いて、教育に振り向けているのかというとなかなか難しい現状があります。
 
 それは忙しいからです。人がいない、患者は高齢化する、介助が必要、助手をうまくつかえていない、仕組みがない、他部署との間にコンフリクトがあるといった複数の問題が複雑に絡み合って、時間がありません。
十分な看護師が確保できている病院はとても少ないでしょう。したがってそこまで手が回らない。したがって各専門科における看護の質を高めようとしても、専門教育にまでコマを進めることができない、アルゴリズムを活用した看護や、そもそも当初の看護計画通りの看護がうまくできないジレンマを師長がもちながら、主任、スタッフというように教育を進めていくことが困難な環境にあると考えています。
 
 タイムマネジメントや業務改善、他部署とのコンフリクトを排除するといった仕組みがあったとしても、それを総合的にマネジメントして、彼女たちが働き易い環境をつくりあげていくことが難しい状況をどのように打開していけばよいのか。今の医療制度が大きく変わるか、コストをかけても利益が維持できるしっかりした病院になるか、また優れたリーダーが看護だけではなく、病院全体を俯瞰して経営改革を行う必要があります。
 
 何れにしても、何毎も個々人に光を当てた教育を行うことができるのかどうかにより、成果が左右されるという現状をまずは理解し、総力をあげてそうした環境をつくるために、看護部長や師長は動くし、看護部がうまく活動できるよう、病院トップはしっかりと支援できる仕組みをつくりあげていくことが求められます。そうでなければ、看護師は定着できず、また入替えが多く、質が上らず、益々現場は混乱することになります。個々人に光を当てた教育カルテを活用した看護は、他の職員の鑑になります。
 
 すべての仕組みの原点に、職員一人ひとりの教育の視点が必要である、という結論です。