先日ある規模の大きな診療所のトップが、「職員がやるべきことをしない」と嘆かれていました。しかしお聴きしてみると、ご自身のやりたいことを整理し経営方針として提示することや具体的な目標設定なしに、日々のルーチン業務のなかで職員に期待をしていることが明らかになりました。
もちろんルーチンそのものは医療現場の要であり大切な仕事ですが、個人の役割が明確になっておらず、現場は過去からの仕事の積み重ねのなかで方向を見失い、もがいていたかもしれない状況でした。ガバナンスも効かず標準化も改善のための取り組みも評価や教育もないなかでの失望だったのです。
組織が何を目指すのかにより、必要な人材像も役割も変化します。当たり前ですが、なぜ、何を、どこで、いつまでに、誰が、どのように、いくらで行うのか、5W2Hが明らかにされた明確な戦略、成果を挙げるための具体的な方法や計画をもち、それを具体化するプロセスにおいて「職員がやるべきことをしない」のかどうかが議論されなければなりません。
職員の自立を促し連携しながら成果を挙げるよう誘導していかなければならないのです。
さて、自立した「職員がやるべきことをする」必要があるときに権限や責任に光が当たります。組織の権限は、起案、審査、承認、(実施)、報告という行為に区分されます。「起案」は何かを提案すること、お伺いを立てること、そして「審査」はそれが組織のルールや目的に合致したものかどうかをチェックすること、さらに「承認」は、審査を経て上程された事案の実施を許可することをいいます。
組織におけるすべての業務はこの3つの段階を経て実行されます。さらにその結果がどうであったのかを、最終権限者に「報告」することで、ある業務が完結します。これらは権限の4行使といわれます。権限の行使をこのフロー以外で行うことはありません。特定事項において上記の何れかの権限を有するものが責任をもち、それぞれの行為を行い、業務を遂行します。
組織は、すべての仕事を洗いざらい抽出するとともに、責任者を列挙し上記権限を誰が、何時、どのように、行使するのかを決定する必要があります。そして決めた権限の行使の形体を権限規制に取りまとめ、組織に開示することにより権限(=責任)を明確にすることが求められています。
権限を決定し開示、それを遵守させることが、組織運営を的確に行うための要諦です。なお、特定の人に依存する度合いが増えリスクが高い、権限が集中することで牽制が行われない、といった問題が発生します。
組織運営上の統制上、権限を委譲し、また分散させリスクをヘッジする仕組みをもつことも必要です。組織運営を設計するときの重要な視点の一つだと考えています。
整理すると、職員の成果を期待するためには、
- ガバナンス体系において戦略やアクションプランの立案を行い、
- 「職員がやるべきことをできる」体制をつくり、
- 適切な人が適切な権限を行使する
といったことが必要なことが分かりました。このことは医療に限らずすべての組織運営に求められるマネジメントの基本です。
ミーティングを経て、院長が上記マネジメントの仕組みづくりに着手する決定を行ったことはいうまでもありません。