よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

病院行き帰りタクシー物語

 ある病院で、ミーティングが終わったのちタクシーで駅まで帰りました。
 私は職業柄、いつも病院に訪問する前と訪問した後、タクシーで運転手さんのその病院に対する話を聞くことにしています。聞き方としては、「運転手さんはこの病院によく来ますか?」とか、「この町で評判の良い病院はどこですか?」のようなものです。
 当日の話がとてもインパクトがありました。女性の運転手さんでしたが、

私が「駅までお願いします。で、○○駅からここまでくる患者さんはいらっしゃいますか?」と聞いたところから、物語が始まりました。
「いやめったに来ませんけど、○○科の○○先生目当ての患者さんは、○○や○○から電車に乗ってきていますよ。とても○○の治療では良い評判です」…この医師は院内ではぐちばかり言って看護部長がとても怒っていた先生です。

「他にはどんな先生がいらっしゃるんですか?」「他にも○○科によい医師がいましたが、病院とうまくいかないで開業してしまいました」「もともと○○科で評判な病院だったのに、いまではあまりよい先生がいなくて、患者さんも減っています」「へ~そうなんですか、で、他にはどんな先生が…」

「(クックックッと笑いながら)若い先生で遊びのお金が欲しくて節約のために検査食を看護師さんからもらって昼食にしている先生がいました。本人から、俺さ、そうして節約しているんだ~って聞きましたから…」「え~注腸食とか食べてるのかな~、在庫管理はどうなっているだろう…」

この頃から運転手さんはとまらなくなりました。「で~ぇ、私ともう会うことがないっておもうじゃないですか、だからいろんなこと職員の人がいってくるんです」「この間は看護師さんが、今日これから離婚するんです、って今どんなに悩んでいるか話してきたり、看護部長の悪口いったりして…」「でも、○○病院の看護師さんは(競合先)、とても礼儀正しくて評判いいんですけど、この病院の看護師さんは態度が悪くて患者さんはみんな怒っていますよ」(このことは看護部長は知っているのかな)

「で、患者さんがこんなことがあった、こんなことがあったっていってくるんですよね。この前なんかは、トイレに行くのが大変なお母さんのために病棟にポータブルもってきてくださいと言ったら、看護師さんが、嫌そうにバンッて、ポータブル置いていって、中を開けたら、前の人のものが残ったままだったらしいんですよ~(大笑い)」「びっくりしますね、それはひどい」(ありえない話だな、マニュアル委員会や教育委員会、接遇委員会とミーティングしなければ…)

「で、この病院ではないんですけどぉ~(もうこのあたりから、さきほどの病院は離れて他の病院の話しになっています)私の知り合いの人のお父さんがガンの治療しているときに、医師が患者さんの目の前で、もうながくないから薬減らしますね、っていったらしくて…、その患者さん俺はもうあと1ヶ月だ、ってすごく落ちこんでげっそりしてしまったらしいんです」「げっ、それはひどすぎますよね」「で、そしたら、その患者さんが他の病院で見てもらったら、どこにもありませんよ、治癒していますっていわれたんですって」「それはよかったですね。でも前の医師の診断はどうなっているんでしょうね」「で、お父さんは大喜びで、元気になったらしいんですが、その話をもとの病院の医師に話したら、いや、どうせ3年でまた、でてきますから(再発しますからの意)、といったらしいんです。それでまたそのお父さん、俺はあと3年だ~、っていってまた元気をなくして」

そのあとも、もっとひどい話が沢山ありましたが、これ以上は書けません。
 
 きっと、この運転手さんだけではなく、多くの方々が病院や医療に興味をもって話しをしています。あるいは聞いています。医療従事者も聖人ではありませんから、間違いもあるでしょう。しかし、明らかにひどい。誇張もあるかもしれないし、うそもあるかもしれない。しかし、振り返ってみると、きっと思い当たることもあると思います。

 地域でも評判の、よい病院に訪問するときのタクシーの運転手さんは、「この病院の先生はみなすごいんですよ」「私は20年前に手術をしましたが、ぜんぜんなんともないのは、この病院のおかげなんです」と説明してくれたりします。

 今日訪問した中国地方の病院で午前中ミーティングしながら、「志をもって医療従事者になった人達が、どこかでそれを忘れて怠惰になることがある」と事務長から聞かされました。
 毎日現場にいない私たちが最前線にいらっしゃる医療従事者の辛さや苦しみを知る由もありません。また、ことさらに面白おかしく医療を語るつもりもありません。しかし、医療は、他のサービス業とは違い、「医療を提供する業である」という理解を私たちはしています。患者さんの生命を扱う仕事であるということを真摯に受け止めることが必要なのでしょう。
 
 自分も少しでも病院や医療従事者の方々が本来の使命を果たせるよう、役に立つ仕事をしようと思いなおした日でしたし、これからも病院の生き帰りに、私は必ずタクシーを使おうと思った日でもありました。
 
「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」